イエローモンキー

 

 山梨のとある田舎町に引っ越して来たのは、つい4日前の事だった。何も分からない私に手取り足取り教えてくれたのは、近所の「イエローモンキー」という喫茶店を営む山壁さんだった。週末はここのスーパーに行くと良いだとか、道の駅のこの野菜が美味しいだとか何でも教えてくれた。改めて、田舎の温かさを知れた。引っ越しの整理が着いた頃に、「俺の店に来ないか?今回はタダで出すよ。」と山壁さんが誘ってくれた。妻と二人でお邪魔することにした。

 

 「名前の由来はね、昔、海外あっちこっち飛び回ってた頃にパリで『イエローモンキーが!』って言われたのが由来やね。悔しさと差別の実感が忘れられなくてね。ついで言うと、うちで提供する肉は全部黄色い猿の肉やからね。あぁ!これはキマリだって思った訳よ。」

 

 山壁さんの語りを聴きながら食べる特製イエローモンキーカレーは大変美味だった。まず猿の肉というのが少し硬いのだけれど、しっかりと味が染みていてなんとも言えない刺激がある。

 

 「ワニもカエルもイノシシも食べたけど、ダントツで美味しいわ猿の肉。」

 

妻の一絵が手で口を抑えながら言った。山壁さんも満足気だった。

 

 「また来なよ。次はちゃんと金取るからな!ガハハ!」

 

 僕らはイエローモンキーを後にした。後ろを振り返ると、山壁さんと、その奥さん───どうも街の葬儀屋を経営している───とベトナム人の店員さんが手を振って送迎してくれた。

 

 家に戻った後、我々はすぐに身支度をして車に乗った。

 

 「一絵、肉のサンプルは取れたか?」

 

 「はい、取れましたよ。そういえば猛さんは肉食べてましたけど、気分大丈夫ですか?私は全部吐き出しましたけど……。」

 

 「大丈夫だ。少し吐き気はするが……。それは矢作さんのとこに送る。身辺調査と証拠は大体揃った。地元の長野県警と下にいる山部さん達に合流して突入するぞ。」

 

 「了解。」

 

 二人は車に乗って下山した。

 

 

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 「行ったか?」

 

山壁は車が畑の小道の先にある、アカマツの林の中に消えたのを確認した。「まったく、なんでこんな所に人が引っ越してくんだよ……。」と思いながら、裏の作業所に今朝妻が届けてくれた食材の解体を始めた。

 ベトナム人のミンさんは包丁捌きがとてもうまく、骨と皮を綺麗に剥いでくれた。あとは山壁が調理用のサイズにカットして、冷蔵庫に寝かすだけだった。

 

 「ふぅ、下準備終了。ミン、風呂入ってきていいぞ。」

 

 「エンリョナク」

 

山壁は手を洗って、畑の方に目をやった。そろそろレタスが収穫できるはずだ。そしたら、夏野菜のサラダをメニューに加えられる。

 そう思った矢先、アカマツの林から赤いサイレン鳴らした車や黒のクラウンなどが数台来ているではないか!

 

 「清子!急いで証拠を隠滅しろ!ミン!早くこの冷蔵庫のやつを始末するぞ!」

 

───しかし、全てがもう遅かった。

 

 2023年8月6日、山梨県◎市で市内の霊安室に安置されている死体奪った他、多数人を誘拐殺人し、集めた死体を『黄色い猿の肉』として提供していた喫茶店イエロー・モンキーの店主山壁哲人及びその授業員と妻が死体損壊罪含めその他の容疑で逮捕された。

 報道によると、山壁氏は若い頃に趣味の海外旅行であっちこっちに飛び回っていた。その中でニューギニアの人肉文化に触れ、「人肉食で飲食店をやる」ということを発案したという。妻やミン氏は海外旅行の中で偶然出会った友人であり、また彼らも日常的に人肉を食していた。彼らは容疑を認めており、事件の究明と罪の執行が待たれる。