シンギュラリティ・ツイッタラー

 

 この頃、巷ではChatGPTが流行っているようで、アチコチで流れてくるものだ。やれ「ChatGPTを論破した」だの、やれ「ChatGPTでExcelが楽になった」だのと。世の中の技術の進歩は、正に神のごとく飛躍的で、またAIの脳はいつか神になろうとしているのかもしれない。

 

 Takuya Kitagawa/北川拓也 on Twitter: "近年のAIの進化は実は理解されていない。 ChatGPTを筆頭に、信じられないレベルでAIが進化している。 そう、本当に信じられないレベルなのは、なぜAIがこんなにも「急激に」質が良くなったかを、誰も説明できないからだ。 おそらく発明した研究者本人たちですら。 どういうことか。 1/n" / Twitter

 

 なんでも、AIがこうも進化したのは所謂「相転移」と言う現象らしい。詳しく存じ上げないが、上の北川氏のツイートで説明される通り、「量」がある一定のラインで「質」を変えてしまうのだ。

 1個の原子では水が氷になる、という現象はおこらないが、10の23乗の原子があれば、水は氷になる

 北川氏の具体例が正しく良い例だったので引用させて頂く。これでも分からない人の為にもっとわかり易く言うと、1人では「ただの生徒」でも30人集まればそれは「クラス」なのだ、といった具合だろうか。

 

 大規模言語モデル(以降;LLM)もこの相転移が見られたらしく、ある一定のデータ量を超えた途端に、最初の頃には不可能だった性能を発揮し始めたという。

 

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引用元: Characterizing Emergent Phenomena in Large Language Models – Google AI Blog

グラフを見れば分かる通り、約1000億パラメータ付近で急激に性能が向上しているのだ。

 

 OpenAIは15億パラメータのGPT-2を作った後、今度は1750億パラメータのGPT-3を作り始めた。しかしながら、開発段階で、このような素晴らしい能力が生じる事を誰が想像もしてただろうか?

 パラメーターが少ないうちは「人工無脳」なんて言われていたLLMがあっという間に、便利な道具になり、根暗ナード共のお喋り相手になり───それは、まるでserial experiments lainの世界観の様に────なんて、誰が想像出来ただろうか?

 ツイッターでは、もう既にAI絵師やDeppLが出た当初のように、「ホワイトカラーを雇う必要が無くなるのではないか」なんて議論もある。

 

 だがしかし、私はそこに「待った」をかけたい。本当に消えるのは仕事ではないということだ。

 仕事は、やはり仕事である以上、人間の方が効率が良いというのに尽きるだろう。資本集約型のAIによる生産・サービスよりも、人間による労働集約型の生産・サービスの方が利潤率自体は高いのだ(実際、AIでも出来そうな事を企業は中々DXせず非正規雇用にやらせているのが日本の現状だ)。マルクス経済学で言うところの、資本の有機的構成の高度化に伴う利潤率の傾向的低落法則だ。

 では、何が消えるのか。それはやはり私はツイッタラーだと思う。そもそもを言えば、我々が日頃タイムラインで見るツイートと言うのは、勿論個々人の個性に溢れるものもあるが、基本的には普遍的で、どこかで見た文体、スラング、或いは構文の様なものなのだ。

 例えば、「サイゼリヤが美味しくない」だとか、「女はバカだ」とか、逆にかえって「男はヤリモクでキモいだ」とか、まあ挙げれば枚挙に暇がない。とりあえず言えることは、「バズってるツイート」と言うのはどこか皆同じなのだ。

 そこで出てくるのが、LLMだ。 GPT-3はインターネット内のほぼ全てのテキストの内、前処理をした570GBを学習している。つまり、GPT-3はインターネットを全て記憶しているようなものなのだ。その知識は360GBほどのモデルサイズであり、A100なら5台あればVRAMに全て展開可能だ。GPUの強烈な大規模パラレル行列演算によって、インターネットのほぼ全ての知識を頭の隅に置きながら思考できるわけだ。

 と言っても、GPT-3はTwitterのツイートまでは学習していないらしい。しかし、理論上は可能であり、恐らく実行も容易いというわけだ。要するに、Twitterバズ製造機マシーンが作れてしまうのだ。

 そうなると、もう態々質の悪い文学をネット上で素人がやった所で意味がない。僕らが乙武洋匡で炎上商法するのも、異性叩き、冷笑、愛くるしい子供の話、恋愛ポエム、哀しく同情を呼ぶ自分語り、毎年クリスマスになると伊藤誠ネタがバズる、マツコデラックスが言ってるおめでたい一言……。そんな他愛もない事、全部全部がもうAIには勝てない。バズるのはAIが淡々とするツイート。もし仮に君がアルファツイッタラーだとして、突然Twitterを辞めて、しかしそのアカウントはAIに任せたとしても、君のアカウントはバズり続けるわけだ。

 私は預言しよう。近い将来、AIアルファツイッタラーが誕生する。実際、しゅーまいくんだとか、あかり大好きbotだとかその土壌はあった。皆、ネタツイも好きだし、猫の画像やHな絵も好きだけれど、同じくらい自動ツイートの面白おかしいのも好きだった。APIが有料化するとかで難しいかもしれないけれど、そういうのが現れるのではないかという気がする。そして、そういうアカウントが現れても、本当にAIだとは思わない人間も一定数いるだろうし、言われなければ賢ぶっている人間も分からないと思う。

 私は実際「しゅーまいくん」の垢を自動ツイートでないと思っていた友人を見たことがあるからだ。