殺し屋の話

 

 


ジョリーは赤い屋根の家の扉を11回ノックした。中にいるのはこの国一番の殺し屋だ。召使いが出てきて、ジョリーを中に招いた。

殺し屋は書斎から応接間に出てきた。殺し屋の図体は大きく、身を屈めるようにして入ってきた。石でできた部屋で、赤いカーペットが敷かれていた。壁には如何にも殺し屋らしく、鹿の頭骨や人間の頭骨、虎の毛皮が飾られている。ジョリーは真ん中の椅子に座り、ローテーブルを挟んで対座のソファには殺し屋が座った。

「何しに来た、依頼かね。」

殺し屋は言う。

「いいえ、弟子入りに来たのです。私は一流の殺し屋を目指しています。」

ジョリーは言う。殺し屋は、ジョリーの眼を見たり天井を見たりして目を泳がせていた。

「まず言うが、殺し屋なんてものはなりたくてなるものではないし、責任はそこら辺の仕事よりも重い。君にそれがわかるのかね。」

殺し屋は言う。

「はい。わかっています。それを承知で来たのです。」

ジョリーは言う。

「では、尋ねよう。殺し屋に大切なことはなんだ。」

「殺しのスキルです。例えば、毒ガスを作るにしても使用後空気に溶け込み、バレにくいものがいいでしょう。ナイフを使うならば、背後から襲って首の根を掻き切るのです。」

「違うね。」

殺し屋は微笑する。不気味というよりかは、祖父が孫の間違いを笑うかのような笑い方である。

「そんなもの、副次的なものでしかない。もう一度聞く。大切なことはなんだ。」

「え……とですね。」

ジョリーは両指を両脚の隙間に挟みモジモジと弄りながら動揺した。

ジョリーは恥ずかしいとか挫折を感じたとかではなく、単純に答えに困った。殺し屋にとって大切なことだと?そんなもの殺しのスキル以外に何があるんだ。挨拶や礼儀か? そんなもの娑婆の世界みたいなことを言わせる気か?殺しの世界じゃそんなもの必要ない。しかし、ジョリーは、ここでわかりませんと答えるほど諦めの悪いバカではなかった。

「では、スピードでしょうか。早ければ早いほど依頼主は喜ぶでしょう。」

ジョリーは頭を捻りながら答えを出した。しかし、殺し屋はまた微笑している。

「違うね。」

殺し屋は言う。殺し屋は溜息をついた。

「いいかね、殺し屋に大切なことは結果だよ。人を殺す。それだけだ。」

「あぁ〜なるほど。」

ジョリーは手をポンと叩いた。

「殺しを依頼されたわけだ。ならば、殺せばいいんだ。殺し方だのスピードだのは過程に過ぎない。過程を評価するのはね、学校だけだよ。努力だの工夫だの。そんなものは学校でしか評価されないものだ。」

殺し屋はダガーナイフを腰から抜いて、右手の先でブンブンと回した。

「コイツで心臓でも喉でもどこでも刺せばいい。そうすりゃ、人は死ぬんだからな。毒ガスとか、楽な殺し方とか拘泥しちゃぁねぇ。」

「なるほど。」

ジョリーはまたも手をポンと叩いて頷く。だが、その刹那だった。ジョリーの喉元から鮮血がツゥっと垂れた。ジョリーは、喉をつたう赤い液体を即座に何であるか理解できなかった。それを触って血と眼で確認したとき、喉元の動脈から痛みと共に血液が吹き出した。ジョリーは頭からローテーブルへと倒れた。

「これも結果ってことだ。悪いな。」

殺し屋は今ローテーブルの上で息絶えていく青年を見ながら、汚れたダガーナイフを拭いていた。